『あすなろ通信』2012年5月第165号

発行
高松あすなろの会
主な記事

生活保護制度に関する冷静な報道と議論を求める緊急声明

  • 2012年5月28日
  • 生活保護問題対策全国会議代表幹事 弁護士 尾藤廣喜
  • 全国生活保護裁判連絡会 代表委員 小川政亮

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人気お笑いタレントの母親が生活保護を受給していることを女性週刊誌が報じたことを契機に生活保護に対する異常なバッシングが続いている。

今回の一連の報道は、あまりに感情的で、実態を十分に踏まえることなく、浮足立った便乗報道合戦になっている。「不正受給が横行している」、「働くより生活保護をもらった方が楽で得」「不良外国人が日本の制度を壊す」、果ては視聴者から自分の知っている生活保護受給者の行状についての「通報」を募る番組まである。一連の報道の特徴は、なぜ扶養が生活保護制度上保護の要件とされていないのかという点についての正確な理解を欠いたまま、極めてレアケースである高額所得の息子としての道義的問題をすりかえ、あたかも制度全般や制度利用者全般に問題があるかのごとき報道がなされている点にある。

つまり、

  • (1)本来、生活保護法上、扶養義務者の扶養は、保護利用の要件とはされていないこと、
  • (2)成人に達した子どもの親に対する扶養義務は、「その者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせた上で、余裕があれば援助する義務」にすぎないこと、
  • (3)しかも、その場合の扶養の程度、内容は、あくまでも話し合い合意をもととするものであること、
  • (4)もし、扶養の程度、内容が、扶養義務の「社会的地位にふさわしい生活を成り立たせ」ることを前提としても、なお著しく少ないと判断される場合には、福祉事務所が、家庭裁判所に扶養義務者の扶養を求める手続きが、生活保護法77条に定められていること

などの扶養の在り方に関する正しい議論がなされないまま、一方的に「不正受給」が行なわれているかのごとき追及と報道がなされているのである。

また、そこでは、

  • (1)雇用の崩壊と高齢化の進展が深刻であるのに雇用保険や年金等の他の社会保障制度が極めて脆弱であるという社会の構造からして、生活保護利用者が増えるという今日の事態は当然のことであること、
  • (2)生活保護制度利用者が増えたといっても利用率は1.6%に過ぎず、先進諸国(ドイツ9.7%、イギリス9.3%、フランス5.7%)に比べてむしろ異常に低いこと、
  • (3)「不正受給」は、金額ベースで0.4%弱で推移しているのに対して、捕捉率(生活保護利用資格のある人のうち現に利用している人の割合)は2〜3割に過ぎず、むしろ必要な人に行きわたっていないこと(漏給)が大きな問題であること

など、生活保護制度利用者増加の原因となる事実が置き去りにされている。

さらに、今回の一連の報道は、厳しい雇用情勢の中での就労努力や病気の治療など、個々が抱えた課題に真摯に向き合っている人、あるいは、苦しい中で、さまざまな事情から親族の援助を受けられず、「孤立」を余儀なくされている高齢の利用者など多くの生活保護利用者の心と名誉を深く傷つけている。

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ところで、今回のタレントバッシングの中心となった世耕弘成議員と片山さつき議員は、自民党の「生活保護に関するプロジェクトチーム」の座長とメンバーである。そして、同党が2012年4月9日に発表した生活保護制度に関する政策は、

  • (1)生活保護給付水準の10%引き下げ、
  • (2)自治体による医療機関の指定、重複処方の厳格なチェック、ジェネリック薬の使用義務の法制化などによる医療費の抑制、
  • (3)食費や被服費などの生活扶助、住宅扶助、教育扶助等の現物給付化、
  • (4)稼働層を対象とした生活保護期間「有期制」の導入

などが並び、憲法25条に基づき、住民の生存権を保障する最後のセイフティーネットとしての生活保護制度を確立するという視点を全く欠いた、財政抑制のみが先行した施策となっている。

かつて、小泉政権下においては、毎年2200億円社会保障費を削減するなどの徹底した給付抑制策を推進し、その行きつく先が、「保護行政の優等生」「厚生労働省の直轄地」と言われた北九州市における3年連続の餓死事件の発生であった。今回の自民党の生活保護制度に関する政策には、こうした施策が日本の貧困を拡大させたとして強い批判を招き、政権交代に結びついたことに対する反省のかけらも見られない。

さらに問題なのは、社会保障・税一体改革特別委員会において、自民党の生活保護に関する政策について、現政権の野田首相が「4か3.5くらいは同じ」と述べ、小宮山厚生労働大臣が「自民党の提起も踏まえて、どう引き下げていくのか議論したい」と述べていることである。

そこには、「国民の生活が第一」という政権交代時のスローガンをどう実現していくか、また、「コンクリートから人へ」の視点に基づき、貧困の深刻化の中で、この国の最低生活水準をどう底上げしていくのかという姿勢が全く見られない。

そもそも、生活保護基準については、2011年2月から社会保障審議会の生活保護基準部会において、学識経験者らによる専門的な検討が進められているのであり、小宮山大臣の発言は、同部会に対して外部から露骨な政治的圧力をかけるものであって部会委員らの真摯な努力を冒涜するものと言わなければならない。

そのうえ、小宮山大臣は、「親族側に扶養が困難な理由を証明する義務」を課すと事実上扶養を生活保護利用の要件とする法改正を検討する考えまで示している。しかし、今回のタレントの例外的な事例を契機に、制度の本来的在り方を検討することなく、法改正を行うということ自体が乱暴極まりない。また、生活困窮者の中には、DV被害者や虐待経験者も少なくなく、「無縁社会」とも言われる現代社会において、家族との関係が希薄化・悪化・断絶している人がほとんどである。かつて、札幌市白石区で25年前に発生した母親餓死事件は、まさに、保護申請に際して、この扶養をできない証明を求められたことが原因となって発生した事件であった。

かかる点を直視することなく、法改正を行えば、ただでさえ利用しにくい生活保護制度がほとんど利用できなくなり、「餓死」「孤立死」などの深刻な事態を招くことが明らかである。小宮山大臣は、国民の生活保障に責任をもつ厚生労働大臣として、マスコミに対して冷静な対応を呼びかけるべき立場にありながら、混乱に翻弄されて軽率にも理不尽な法改正にまで言及しており、その職責に反していると言わざるを得ない。

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今年に入ってから全国で「餓死」「凍死」「孤立死」が相次いでいるが、目下の経済状況下で、雇用や他の社会保障制度の現状を改めることなく、放置したままで生活保護制度のみを切り縮めれば、餓死者・自殺者が続発し、犯罪も増え社会不安を招くことが目に見えている。

今求められているのは、生活保護制度が置かれている客観的な状況を把握し、制度利用者の実態に目を向け、その声に耳を傾けながら、冷静にあるべき方向性を議論することである。

当会は、報道関係各位に対しては、正確な情報に基づく冷静な報道を心掛けていただくようお願いするとともに、民主党政権に対しては、今一度政権交代時の「国民の生活が第一」の原点に戻った政権運営を期待し、自民党に対しては、今回の生活保護制度に関する政策の根本的見直しを求め、本緊急声明を発表する次第である。

  • 以上

体験談 『1歩踏み出したら人生変わりました』

  • K子

私は結婚するまで、借金の「しゃ」の字も知らずに、平穏無事に生活していました。高校を卒業して会社に就職し、別に欲しい物もなく、自宅と会社の往復をしていました。将来親に負担をかけたくなかったので、給料も殆んど貯金していました。

23歳で自営業の人と結婚しました。結婚後最初は利益も順調にあがり、生活するのに何の心配もありませんでした。子供も二人授かって、幸せな日々を過ごしていました。

ところが、景気の悪化にともない売上げが次第に減り、逆に子供達が中学校、高校と大きくなっていくにつれ、生活費や教育費の割合は増えていきました。

その頃から赤字を埋める為に、初めて銀行から借金をしました。この借金は家族に内緒でした。とても言い出せなくて、もし話したとしても、私の金銭管理が悪いと言われそうでとても無理でした。こうして毎月、借金返済をする生活が始まりました。

どうしたら売上げが増えるのか考えましたが、不景気の折、そう簡単には増えません。不景気になると一般的には被服費や嗜好品費などを減らす人が多く、それも売上げ減に響いてきました。

その頃には銀行の借入れも限度一杯になっており、次の銀行、次の銀行と借金は増えていきました。長男が大学進学を望み、「お金がないので進学はやめて」とは言えず、「売上げをがんばったら大丈夫!」と自分に言い聞かせて大学進学を認めました。長男の大学進学を認めると、翌年には長女も大学に行きたいと言い出し、結局ダメとは言えませんでした。子供たちも家が裕福でないのは分かっているので、自分でアルバイト・奨学金などで生活費をまかなってくれましたが、大学進学費が家計に負担となっていきました。売上げが増えたらどうにかなると、曖昧な気持で大学進学を許しましたが、実際は増えるどころか落ち続ける一方でした。

銀行から借りられなくなったら、次はサラ金で借りるしかありませんでした。「A社で借りてB社への支払に回す」そんな生活が何年も続きました。

そのうちサラ金さえも私名義では貸してくれなくなり、「ヤミ金で借りようか…」との考えも頭の中をチラッとかすめましたが、とても恐くてこれ以上は借りるのはあきらめました。

でも、支払いは増えるばかりです。

とうとう、夫に話さざるを得なくなりました。

しかしこのときは、夫に話して借金を整理したのではなく、とんでもないことに夫名義で銀行から借りてもらったのです。

「あのとき、ここで止めてどうにかしていたら、これからの借金地獄はなかったのでは…」と、今では反省しきりです。

そのうち、夫名義でも借りられなくなり、私の顔つきがおかしくなっていたのでしょう。子供がその異変に気づき、「どうしたの? なに考えているの?」と言われるようになってしまっていました。この頃は家庭の中は本当に地獄のようでした。いつもいつも支払いに追われ、金策に駈けずり、万策尽き果て「これで最期か」とこの先がまったく見通せなくなっていたとき、夫が「NHKの放送で多重債務者の話があって、高松あすなろの会というところが出ていた。相談してみないか」と言ってきました。

私は、「あすなろの会? どんなところだろう?」と、おそるおそる相談に行きました。

今考えたら、「何でもっと早くあすなろの会に出会わなかったのだろうか」と思うぐらいすごくありがたく、「自分1人で悩んでいたのが何だったのだろう?」と思いました。

相談員の人に「すべての借金を書き出して下さい」と言われ、恐くてあえてそれから逃げていましたが、びっくりする金額になっていました。これからどういうふうにしていこうかとあすなろの会の人と何回も話し合い、「どうしたいの?」と聞かれ、「返せなくなったんです」と話して相談しました。

私の借金は、銀行も多く、サラ金も利息制限法の計算をしても過払いにはならずに全て債務が残りました。相談員の人から「自己破産しかないですね」と言われました。しかし、弁護士に頼む費用はありません。「それなら自力で全ての手続きをやってみよう」と一念発起し、高松あすなろの会の人に書き方など1つ1つ教えてもらいながら手続きを進めていきました。

何回あすなろの会に通ったんだろう。

何にもわからない私に親切にわかるまで教えてもらい大変だったと思います。全部の書類をそろえて裁判所に提出し、無事自己破産は認められました。今から4年前のことです。

しかし、夫名義の借金は、そのときは整理せずに以後毎月払っていました。商売をしているので借金の整理をするとブラックリストに載り、商売がやっていけないと思っていたからです。

それから何年かした頃、あすなろの会の人から電話で「ご主人のサラ金の利息計算をしてみたら」と連絡がありました。「過払いになっていたら、今はもうブラックリストには載らない」と言われ、履歴を取り寄せ計算をしてみると、やはり過払金が発生していました。

取り戻すにはどうしたらいいか、いろんな方法がありました。任意和解、裁判(本人訴訟)、弁護士依頼など、私は最初、任意和解してもいいかなと思いましたが、「(利息など)請求金額の全額は返してくれないことが多い」と相談員から聞いたので、裁判を選びました。自己破産のときと同じく弁護士に頼む費用はありません。夫名義とはいえ使ったのは私で、私が事情をよく知っているということで代理人申請をし、本人訴訟で裁判をすることにしました。

毎週月曜日の夜に勉強会があると聞いていたので、それから毎週勉強会に参加して裁判所に出す書類や、どういう風にしたらいいかを勉強しました。自分が知らなかったことがわかるのでとても楽しく、参加するのが楽しみになっていました。

勉強会で学んだことを実践して、夫名義で借りていた過払金訴訟は、全件とも和解せず判決まで頑張り完全勝訴し、訴訟費用も含め全額返還してもらいました。

私と同じ借金で苦しんでいる人はまだまだいるはずです。そういった人たちに「1歩踏み出したら人生変わりますよ」と伝えたいです。

  • (了)

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