クレジット・サラ金・ヤミ金や生活に困ったら高松あすなろの会 - 「万引きを繰り返してしまう」それはクレプトマニアという病気かもしれません -

文字サイズ
自動
100%
125%
150%
175%
200%
250%
300%
400%

「万引きを繰り返してしまう」それはクレプトマニアという病気かもしれません

アディクションとしての万引き

お金を持っているのに万引きしてしまう、お金を払って買い物しようと思って店に入ってもいつの間にか万引きしてしまっている、何度警察に捕まっても万引きが止まらない…こんな行動の原因はクレプトマニア(窃盗症)かもしれません。衝動制御障害の中の一疾患です。


(衝動制御障害には他に間欠性爆発性障害、放火癖、病的賭博、抜毛癖、買い物強迫、インターネット強迫、携帯電話強迫、反復的自傷行為、性行為強迫(露出狂ほか)があります。この中から病的賭博はギャンブル障害としてDSM5では物質依存と同じカテゴリーに入りました)

万引きは違法行為です。万引きが原因で小売店がつぶれてしまうこともあります。決して軽い犯罪ではありません。繰り返される万引きで逮捕され、厳重注意の次は罰金刑(50万円以下)、その次は懲役刑が待っています。執行猶予付きの懲役刑の次は刑務所に収監されます。

こんな大きなリスクを負っていても、万引きを繰り返す人たちがいます。裁判の過程でも、刑務所に収監中でも「あなたのその行動はクレプトマニアのせいかも知れないから、一度専門家に診てもらったらどうか」という助言を受けることもなく、刑務所から出所した後、再び万引きを繰り返す人たちが実はたくさんいます。

罰さえ与えればそれが抑止効果になって万引きが止まるという考えは依存症には通用しません。再犯予防に必要なのは治療です。専門家証人として何度か出廷しましたが、法律の世界においても依存症がほとんど理解されていないままの現実に直面しています。

クレプトマニアの診断基準は次の5項目です。

万引きが発覚するのは200回に1回程度だと言われています。BとCの心理的な体験を繰り返すうちに脳内報酬系が変質していきます。その結果、Aにあるように「物を盗りたいという衝動」が形成され、強くなり、それに抵抗できなくなり、最終的には条件がそろえば万引きしてしまうという行動が自動的になっていきます。依存行動一般に当てはまる行動パターンが形成されます。

診断基準Aを法律家が読むとどうなるかというと、「盗ったものを食べたり使ったりしたらそれは病気ではない、目的を持った犯罪である」ということになります。僕の経験した法廷ではすべての検察官がそう主張しました。クレプトマニアの本質はそこにはなく、衝動を制御できないで繰り返すという行動様式にあります。依存症の理解がないと、そのことの重要性がわからないのだと思います。

(原文はRecurrent failure to resist impulses to steal objects that are not needed for personal use or for their monetary valueとなっており、前半に本質的な部分が来て、後半が補足なのですが、日本語の特性で上のような訳になるわけです。それを専門家でない人が読めば、先に書いてある方が重要だと読んでしまう、そういうことも起きているのではないかと僕は考えています)。診断基準は病気の本質をつかむためのガイドに過ぎないということが理解されていません。

クレプトマニアによる万引きはこのような行動様式です。店に入って商品を見ているうちに、「今度捕まったら刑務所行きだ」とか「家族が悲しむ」とか「仕事を失う」などの現実的で理性的な考えが消え去り、商品と自分のみの世界に没入してしまいます(これを当事者たちは「スイッチが入る」と表現することが多いです)。

物を盗る衝動がその人を支配します。捕まらないようにというのもこの行動様式の重要な要素のひとつですので、盗ったものを隠す等の工夫はしますが、次第に警戒心がマヒして無防備になることが多いです。万引きして捕まらずに店を出ても診断基準Cにあるような満足感や達成感は繰り返すうちにほとんど感じなくなり、「またやってしまった」という後悔が強くなります。

再犯を予防する最大の方法は診断と治療です

クレプトマニアは依存症の一種ですので、きちんと診断して、行動を修正するための行動を続けることで回復が可能です。具体的にはという方法で回復を図っていきます。

何よりも重要なのは本人も周囲の人も、これが衝動制御障害という病気だという理解を深めることです。どの依存症もそうですが、ミーティングを繰り返すことで回復していきます。当院でも平成27年4月から『MTMミーティング』という呼び方でミーティングを開始しています。

万引きを繰り返してしまう人たちの大半がまだこのことを知らずに、知らされずに行動を修正できずにいるのが現実です。まずは医療現場が理解を深めることが先決だと思っています。

そして、「それは病気かもしれないから一度相談した方がいい」と真っ先に本人に伝えられるのは、現状では警察官ではないかと思います。そういう立場の人たちの理解が深まるように専門家としてなにかできることはないかと考えています。

と自分を責め、自殺を考える人も少なくありません。

すべては理解しようとするところから回復は始まると思います。知ることの大切さを痛感しています。

衝動制御障害の「衝動」とは?

1

衝動は欲求や欲望と同じではありません。人間を行動に駆り立てる力のうち、『反省が加えられることなく、自動的、無意志的に行動する力』を言います。「あれが欲しい」と意識できるものとは区別されます。

クレプトマニアの場合、盗みを繰り返すうちに、盗む行為に伴う危機感・スリル・興奮や、捕まらずに盗ることができたときの満足感・達成感・開放感という内面的な体験に次第にとらわれていくようになります。

盗むことで「お金はないが自分のものにしたい」という所有欲や、「お金を使うのがもったいないから、ただ(無料)で手に入れたい」という経済的欲求を満足させるための行動とは違います。

これを脳科学的に説明します。盗むことによる興奮と弛緩の回路が脳の中に生まれます。盗みを繰り返すうちにこの回路が強くなり固定していきます。このような回路はアルコールやギャンブルの依存症と基本的に同じです。

万引きを続けているうちに、窃盗症に進行する人と、そうならない人に分かれますが、その原因はまだよくわかっていません(飲酒する人が全員依存症にならないのと同じだと考えていいと思います)。

クレプトマニアの場合は「何を盗むか」よりも「盗むこと」にとらわれています。その結果、盗ったものを使うことはないということに理論上はなるのですが、実際は部分的にでも使用する人が多いです。

2

クレプトマニアの衝動の作動時間について。

これは基本限定的です。店に入っていない環境ではこの衝動はめったに作動しません。たとえば、自宅にいる時には物を盗みたいという衝動はほとんど起きません。衝動が作動し始めるのは、店に入って商品を目にしているときが大半です。

店に入るときには「万引きしないようにしよう」と思っていても、商品を見ているうちに盗みたい衝動が作動し始めます。人によって何が衝動を作動させるかには違いがありますが、同伴者がいる場合には作動しにくいです。

いったんこの衝動が作動すると、これまで繰り返してきた「物を盗るという行動」が自動的に引き起こされ、意志の力で止めることができないのがこの病気の本質です。

ほとんどの場合、衝動の作用が終わるのは窃盗して店を出てきた時です。まだ店にいるうちに衝動の作用が終わることもあり、この場合は盗ったものを元に戻して窃盗せずに店を出るということがまれに起きます。

3

店に入ったら必ず盗みたい衝動が起きるかというと、そういうものでもなく、本人にもいつその衝動が起きるかわかりません。衝動がおさまり、理性的で現実的な思考ができるようになってから後悔の念が起きることが多いです。起きないこともあります。

4

後になって万引きのことを詳しく思いだせないことがよくありますが、それはクレプトマニアの万引きは自動的な行動になっており、ほとんど無意識的に行動しているためです。

「衝動が作動して万引きする」という一連の行動を引き起こす回路は脳に記憶されています。この記憶を完全に消し去ることは困難ですが(経験したことを記憶から完全に消すのが困難なのと同様だと考えてください)、衝動が作動しなくなるように薄れて弱くなることは可能です、これを回復だと考えてください。

万引きをしない生活を継続することと、脳のリハビリ(衝動の劣化と前頭葉のパワーアップ)によって回復を獲得するのです。そのもっとも効果的な方法が「ありのままの事実をそのまま口に出す」ということです。

ミーティングの効果

ミーティングの効果は確実で絶大です。なんとかして万引きを止めたいと願う人がミーティングに集まってきます。そこでは、他の人の経験を聞き、自分の経験を話します。たった一つの「正直に自分を語る」という規範にそって、単純明快な「聞く・話す」を繰り返します。

その中で、目には見えませんが、それぞれの心の中で様々な化学反応が起こります。反応は多岐にわたります。自覚できない反応もあります。当事者ではない私は進行役として参加させてもらっていますが、毎回心が洗われるような感覚を味わいます。人が生まれ変わることのできる場です。

ここでは誰にも責められることはありません。問題が問題なだけにだれにも話せなかったことがここでは話すことができます。これまで叱責こそされ、誰にも理解されることがなかった心の内を吐きだすことによって、病的な衝動がおさまっていきます。

ミーティングは回復の源泉です。もう自分ではどうにもならないのではないかと絶望感に支配されている人が最期の望みを持ってたどり着く場です。ミーティングに出続けることで、万引きが止まり、回復していきます。

前の記事
『あすなろ通信』2016年1月第182号
次の記事
『あすなろ通信』2016年7月第184号